歯周病菌は全身の病気を招く|生活習慣病につながる理由とは
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歯周病は、さまざまな病気にかかるリスクを高めます。歯周病を防ぐためには日頃の生活習慣を改善することはもちろん、お口の健康を保ち、トラブルを防ぐことも大切です。この記事では歯周病と生活習慣病の関係や、それぞれの予防法について解説します。

歯周病と生活習慣病の関係

歯周病は、さまざまな生活習慣病の罹患リスクを高めることが知られています。その原因には2つあります。

1つ目の原因は、歯周病によって歯を喪失することです。歯周病が進むと歯や歯肉が痛み、歯がぐらぐらするようになります。その後歯が抜けて、食べ物を十分に咀嚼できなくなると硬い食品を避けたり、満腹感を得られなくなったりします。その結果、栄養のバランスが悪くなったり食べ過ぎたりして、生活習慣病に罹患しやすくなるのです。

2つ目の原因は、歯周病菌が排出する毒素や炎症した部位に生じるサイトカイン(免疫系細胞から分泌されるタンパク質)などです。これらの物質が歯肉の毛細血管から全身に運ばれると、血管系の疾患や糖尿病のリスクが高まります。また、歯周病原性細菌などを含んだ唾液が気道から気管支や肺に侵入すると、気管支炎や肺炎を招きます。

口腔ケアについては下記記事で詳しく解説しています。併せて読むことで、歯周病やむし歯について理解できます。

>> 歯周病やむし歯は生活習慣病と深く関係している? 健康寿命を伸ばすために必要な口腔ケアとは

歯周病は歯を失う原因の一つ

歯を喪失する2大原因は「虫歯」と「歯周病」です。公益財団法人 8020推進財団の『第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書(平成30(2018)年11月)』によると、歯が抜ける原因で最も多いのは歯周病(37.1%)です。

歯周病が進行すると、繁殖した歯周病菌が歯槽骨と呼ばれる顎の骨を溶かします。歯槽骨は歯を支える役割があるため、これが溶けると支えを失った歯が抜けてしまうのです。

歯周病の影響は歯が抜けることだけではなく、さまざまな全身疾患と結びついていることがわかっています。それぞれがどのような原因で引き起こされているのか、各疾患との関係について解説します。

歯周病と糖尿病

糖尿病は、インスリンの作用が不足することで高血糖の状態が慢性的に続く病気です。網膜症や腎症、神経障害を併発することもあり、国内にも多くの患者がいます。厚生労働省の『平成28年 国民健康・栄養調査結果の概要』によると、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,000万人、「糖尿病の可能性を否定できない者」は約1,000万人と推計されています。

糖尿病になると、細菌への抵抗力が低下すると同時に組織の修復力も低下します。また、糖尿病は口腔内の潤いを低下させるため、細菌が増殖しやすくなります。そのため、糖尿病になると歯周病が悪化しやすくなるのです。歯周病は「糖尿病の6番目の合併症」とも呼ばれています。

一方で、歯周病によって炎症した部位には免疫系細胞からサイトカインと呼ばれる物質が分泌され、炎症部分から体内に放出されます。本来、炎症性サイトカインは炎症が起きている場所に作用して炎症反応を強めて、細菌やウイルスを撃退する働きがありますが、同時にインスリンの働きを弱める作用もあるため、糖尿病が発症しやすくなると考えられています。

このように糖尿病と歯周病は相互に影響しているため、糖尿病の治療が歯周病の予防になり、歯周病の予防が糖尿病の改善につながります。

歯周病とメタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームとは、内臓肥満に高血圧・脂質代謝異常・高血糖が組み合わさることで心臓病や脳卒中になるリスクが高まった状態のことです。

近年、歯周病とメタボリックシンドロームとの関係についての研究が進められています。例えば東京医科歯科大学などの研究では、歯周病菌に感染すると筋肉(骨格筋)の代謝異常が起こり、メタボリックシンドロームや肥満、糖尿病の危険因子になる可能性が報告されています。歯周病菌の感染が筋肉の炎症に関する遺伝子に作用し、脂肪化の促進と糖の取り込みを疎外するためです。(※1)

他にも、歯周病患者とメタボリックシンドロームに有意な関連があることが認められたという研究報告も発表されています。(※2)

※1 THE FASEB JOURNAL『Porphyromonas gingivalis impairs glucose uptake in skeletal muscle associated with altering gut microbiota』

※2 一般社団法人 口腔衛生学会『口腔衛生学会雑誌』2011年61巻5号 p.573-580 『特定健診対象者における歯周疾患スクリーニングテストとメタボリックシンドロームとの関連性』

歯周病と心臓疾患・脳血管疾患

狭心症や心筋梗塞も歯周病と関係があります。歯周病の原因である細菌の刺激で動脈硬化を誘発する物質が出て、血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が生じて血液の通り道が狭くなるためです。

同じ理由で、歯周病の人は脳卒中を発症するリスクが高いという研究結果も出ています(※3)。脳卒中は脳の血管が詰まったり、破けたりすることで脳に障害が生じる疾患です。脳卒中のうち、血管が詰まる症状が脳梗塞や一過性脳虚血発作で、血管が破れる症状が脳出血やくも膜下出血です。

※3 一般社団法人 日本脳卒中学会『脳卒中』2014年36巻5号 p.374-377『歯周病と脳卒中の関連』

歯周病と誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎は食べ物や唾液が気道に入ることで、口内の細菌が肺に入り込んで起こる肺炎です。通常は咳によって肺への異物混入を避けることができますが、高齢になるとこの機能が衰えます。

また、誤嚥性肺炎を引き起こす細菌の多くは歯周病菌といわれています。そのため、誤嚥性肺炎を予防するためには、歯周病を予防することが大切です。

歯周病と骨粗鬆症

骨粗鬆症は、骨の強度が低下して骨折しやすくなる病気です。骨がもろくなると、くしゃみといったわずかな衝撃でも骨折することがあります。

特に閉経後の女性は骨粗鬆症が発症しやすくなると同時に、歯周病も進行しやすくなると考えられています。これは、女性ホルモンのエストロゲンの分泌が減少するためです。

エストロゲンの減少は骨密度を低下させるため、全身の骨が脆くなります。歯を支える歯槽骨も同様に脆くなるので、歯周病が進行しやすくなるのです。

また、エストロゲンの減少は骨代謝だけでなく免疫や炎症、脂質代謝,糖代謝などにも影響を及ぼすため、細菌感染による炎症である歯周病の発症や進行にも閉経によるエストロゲン欠乏が影響することが示唆されています。(※4)

※4 特定非営利活動法人 日本歯周病学会『日本歯周病学会会誌』2015年57巻4号 p.143-148『閉経後女性における歯周炎』

歯周病のセルフチェックをしてみよう

歯周病は初期段階では自覚症状がありません。症状に気付く頃には歯周病が進行していることがあるため、歯周病のセルフチェックをしてみましょう。以下は、e-ヘルスネット(厚生労働省)で紹介されている『歯周病のセルフチェックリスト』です。

  • 朝起きたときに口のなかがネバネバする
  • 歯みがきのときに出血する
  • 硬いものが噛みにくい
  • 口臭が気になる
  • 歯茎がときどき腫れる
  • 歯茎が下がり、歯と歯の間に隙間ができてきた
  • 歯がグラグラする

上記の項目に当てはまる場合は歯周病の可能性があるため、歯科で検査を受けることをおすすめします。

歯周病を予防して毎日を健康で過ごそう

生活習慣病にはさまざまな疾患があり、生活の質(QOL)の低下を招きます。歯周病は生活習慣病との関係も深く、予防には日々の口腔ケアが大切です。ただし、セルフケアだけで完全に予防するのは難しいので、歯科医院でもメンテナンスをしてもらいましょう。