「社員の健康を守る」は会社の義務。できなければ損害賠償の恐れも
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「社員の健康は従業員が守るべき? それとも企業が守るべき?」

正解は後者です。企業には社員の健康を守る「義務」があるのです。この義務を怠ると、損害賠償に発展するケースもあります。この記事では、労働契約法における「安全配慮義務」について解説していきます。

社員の体調管理は会社の責任

企業には社員の健康を守るべき義務があります。その根拠は、2008年に施行された「労働契約法」の第5条となります。第5条の条文をそのまま引用します。

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

つまり、企業側は社員に対して給料を支払う義務があるほか、「生命、身体等の安全」が確保できるようにする義務があるといえます。

そしてこの「生命、身体等の安全」には、ケガや事故などだけではなく、「心身の健康」も含まれていると解説されています。

安全配慮義務として企業がすべきこと

ここでは企業が安全配慮義務を果たすためにすべきことを5つ説明していきます。

安全衛生の管理体制を整える

「安全管理者」や「衛生管理者」を選任したり、その企業の従業員の健康管理に貢献する「産業医」や「産業保健指導担当者」を配置したりします。

健康診断を1年に1回受けさせる

企業は従業員に対して、1年間に1回は必ず健康診断を受けさせなければなりません。これは「義務」であり「努力目標」ではありません。

メンタルヘルス対策に取り組む

従業員がうつ病などにならないよう、精神面のケアを行う必要があります。定期的な面談などを行うほか、メンタルヘルスに関する研修を実施する企業も増えています。

人間関係の改善などに取り組む

1つの企業ではさまざまな人が働いており、上司と部下といった上下関係もあります。そのため、人間関係のトラブルを抱える従業員は多く、相談窓口などを設ける必要が出てきます。

労働時間の管理で過労死などを防止する

近年、働かせ過ぎによる過労死問題が以前に増して社会問題として捉えられるようになってきました。企業は過労死が起きないよう、労働時間などをしっかりと管理しなければなりません。

安全配慮義務違反の判例の一例

安全配慮義務を果たすために企業がすべきことについて解説しましたが、過去の裁判でこの安全配慮義務に違反しているという判決も出ていますので、その事例を1つ紹介しましょう。

2019年4月16日の福岡地裁による判決では、長時間労働などによる自殺において、企業側の安全配慮義務違反を認めました。この事件では、歯科医院で歯科技工士として働いていた労働者が自殺し、その後、遺族側が歯科医院を相手取り、損害賠償請求を行いました。

裁判所はこの事件において、亡くなった労働者について「恒常的な長時間労働であったといえる」と述べた上で、歯科医院側がその労働時間を客観的資料に基づいて把握していないことなどから「労務管理は不十分であるというほかない」とし、安全配慮義務違反であるとしました。

企業が従業員の健康を守る意義

企業が従業員の健康を守るのは、安全配慮義務を果たすためだけではありません。従業員の生産性の向上や企業の業績の向上の観点からも、企業側は従業員の心身の健康維持・増進に積極的にアプローチするべきです。

従業員が健康であれば、会社を休んだり、早退したりするケースは減り、過度に疲れた状況でなければ日々の業務も円滑に進められるはずです。

メンタルヘルスの問題も抱えておらず、なおかつモチベーションも高ければ、生産性は飛躍的に向上します。

このような生産性の向上は企業業績の向上にも結びつきます。人的コストが変わらず生産性が高まれば、結果として利益率がアップするからです。健康を害して退職する人が減ることで、採用コストの抑制にもつながっていきます。

管理体制や福利厚生の見直しを

この記事では、企業が負う安全管理義務について包括的に説明してきました。いま、企業で従業員の健康に配慮する体制が整っていないとすれば、早急にその状況を改善する必要があることはいうまでもありません。

前述の通り、安全管理者や衛生管理者の選任や、産業医や産業保健指導担当者などの配置が求められるほか、メンタルヘルスに関する相談窓口を設けたり、労働時間の適切な管理によって過労死を防止したりする措置も必要となります。

場合によっては、福利厚生を見直すことも求められます。福利厚生が充実していれば従業員満足度(ES)も向上し、それがメンタルヘルスの安定につながっていくでしょう。

昭和から平成、そして令和と時代が変わり、働き方に関する考え方も大きく変わりました。いまは「24時間戦えますか」と言えば、それは即パワハラになります。こうした時代の変化とともに、企業も変わっていかなければならないのです。