運動不足が招く「脂質異常症」とは|放っておくと脳卒中や心臓病につながる?
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脂質異常症とは脂質の代謝に異常をきたし、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールの値が高くなる状態のことです。生活習慣と大きく関連しており、運動不足や肥満によって発症リスクが高まることがわかっています。

脂質異常症は自覚症状がないため健康診断などで気付く人が多いのですが、動脈硬化を促進して心臓病や脳卒中などのリスクを高めるため、放置せず改善に取り組むことが大切です。

この記事では運動不足と脂質異常症の関係や、予防のために必要な運動について解説します。

運動不足で脂質異常症になる人は多い

運動不足は脂質異常症のリスクを高めます。エネルギー消費量が減少することによって、余分なエネルギーが中性脂肪に変わったり、脂質代謝異常の原因となる内臓脂肪が蓄積されたりするためです。

脂質異常症が進行すると動脈硬化を促進し、心臓病や脳卒中のリスクも高まります。

厚生労働省が発表した令和3年版厚生労働省白書では、運動不足が脂肪に関するリスク要因とされている約5万人のうち、約4万人が循環器疾患(心臓や血管に関する疾患)であると報告されています。

脂質異常症とは

脂質異常症とは、脂質の代謝に異常が起こり、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールなどの値が基準値から外れた状態を指します。

中性脂肪が増えすぎると肥満を引き起こし、悪玉・善玉コレステロールが基準値から外れると動脈硬化を進行します。

脂質異常症はさまざまな生活習慣病の危険因子ですが、自覚症状がないため健康診断などで気付くケースが多いです。

悪玉コレステロール(LDLコレステロール)は脂質のひとつで、コレステロールを全身に運ぶ役割を担っています。通常範囲の数値であれば問題なく、身体にとっては必要なコレステロールです。しかし、増えすぎると血管壁に蓄積して血管が狭くなり、動脈硬化を促進します。

善玉コレステロール(HDLコレステロール)は、余分なコレステロールや血管壁に蓄積したコレステロールを回収して、肝臓へ戻す役割を担っています。動脈硬化を抑える働きがあることから、善玉コレステロールと呼ばれています。血液中の善玉コレステロールが少なくなると、余分なコレステロールが回収されず動脈硬化が促進されてしまいます。

中性脂肪(トリグリセライド)は糖質が脂肪に変化したもので、体脂肪の大半を占めています。身体に必要なエネルギー源ですが、増えすぎると肥満や動脈硬化の原因となります。

脂質異常症の診断基準については、以下の通りです。(空腹時採血)

LDLコレステロール(悪玉コレステロール) 60~119mg/dL:正常範囲

120~139mg/dL:境界域高LDLコレステロール血症

140mg/dL以上:高LDLコレステロール血症

HDLコレステロール(善玉コレステロール) 40mg/dL以上:正常範囲

40mg/dL未満:低HDLコレステロール血症

トリグリセライド(中性脂肪) 30~149mg/dL:正常範囲

150mg/dL以上:高トリグリセライド血症

脂質異常症が抱えるリスク

脂質異常症は動脈硬化を進行させるため、心筋梗塞や脳卒中など命にかかわる病気の発症リスクを高めます。

動脈硬化になると血管は柔軟性が失われて硬くなり、血栓ができやすい状態になります。血液の流れが悪くなることで狭心症、血栓ができることで心筋梗塞や脳卒中を引き起こすのです。

脂質異常症や動脈硬化は高血圧や糖尿病など、さまざまな生活習慣病の危険因子でもあります。

脂質異常症の主な原因は運動不足

脂質異常症の原因は、食事や運動不足などの生活習慣にあるといわれています。運動不足が招く肥満、特に内臓脂肪は血液中の中性脂肪やコレステロールに悪影響を与えるためです。

また、運動不足によって善玉コレステロールが少なくなることもわかっています。善玉コレステロールには血液中の余分なコレステロールを減らして動脈硬化を抑える働きがあり、適度な運動によって増加します。

脂質異常症予防には運動が効果的

脂質異常症の予防・改善には、運動が効果的です。

中強度以上の有酸素運動を中心に、毎日合計30分以上行うのが効果的とされています。 続けて30分ではなく「10分間の運動を朝昼夜の3回行う」など、1日の中で数回に分けてもかまいません。

毎日の運動が難しい場合は週3日以上、運動時間の合計が180分以上となることを目標にしてください。

脂質異常は1回の運動では改善されないため、数ヵ月にわたる運動が必要です。日々の生活の中で、運動を習慣にすることを目指しましょう。

ここからは、中強度以上の有酸素運動について解説します。

ウォーキング

ウォーキングは、日常生活に最も取り入れやすい運動といえるでしょう。

「運動する時間がない」という方は、通勤や買い物などでいつもより少し遠回りをする、いつもより10分間多く歩くなど、無理のない範囲で歩く機会を増やしてください。

歩幅を普段よりも広くしたり、背筋を伸ばして腕を軽く振ったりするなど、歩き方を少し工夫するとより効果が高まります。

速歩き

ウォーキングや普段の歩行を速歩きに変えるだけで、エネルギー消費量を増やすことができます。速歩きウォーキングを毎日続けることで、メタボのリスクを半減できるという報告もあります。

きついと感じない程度に、日々の生活に速歩きを取り入れましょう。

軽いジョギング

軽いジョギングやゆっくり走るスロージョギングは、おしりや背中などの大きな筋肉を使うため、多くのエネルギーを消費できます。

しかし、ジョギングは体重の約3倍の負荷が膝や足首にかかるため、注意が必要です。運動に慣れていない場合はまずウォーキングや速歩きから始めて、少しずつジョギングに移行していくとよいでしょう。

水泳

水泳は有酸素運動と筋力トレーニングの要素を兼ね備えているため、効率的に運動できます。泳げない方は、水の中を歩く水中ウォーキングだけでも十分な効果を得られます。

陸上で歩くよりも足腰への負担が少ないため、高齢の方や運動に慣れていない方におすすめです。

サイクリング

サイクリングは運動強度が比較的強いにも関わらず、きつさを感じにくいというメリットがあります。景色を楽しんだり風を感じたりすることで、気分転換やリフレッシュ効果も期待できるでしょう。

電車通勤を自転車通勤に変えれば、満員電車のストレスからも解放されます。

脂質異常症は薬治療も可能

脂質異常症の治療においては、運動療法や食事療法などの生活習慣の改善が基本となります。しかし、体質的に運動が困難であったり生活習慣の改善によって思うように効果が得らなかったりする場合、薬の内服などの薬物治療によって補助的に脂質をコントロールすることも可能です。

また、家族性高コレステロール血症という病気による脂質異常症は、生活習慣の改善だけでは脂質のコントロールが難しいため、治療の第一選択として薬物療法が用いられる場合もあります。

運動不足を解消して脂質異常症予防をしよう

脂質異常症は、さまざまな生活習慣病の危険因子である動脈硬化のリスクを高めるため注意が必要ですが、運動習慣の見直しによって予防できます。

脂質異常は1回の運動では改善しないため、数ヵ月にわたって運動を継続する必要があります。日々の生活の中にうまく取り入れながら、運動不足を解消しましょう。