
運動習慣は、特定のがんの発症リスクを下げることがわかっています。
がんのリスクを高める糖尿病や肥満などの生活習慣病も運動によって予防できるため、運動習慣はさまざまな、がんの発症リスクを下げることにつながるといえるでしょう。
この記事では運動不足とがんの関係や、がん予防に効果的な運動について詳しく解説します。
日本人の死因の第1位はがん
厚生労働省が2021年に発表した人口動態統計によると、日本における死因の第1位はがん(悪性新生物)であり、年間35万人以上の人が亡くなっています。がんは1981年から現在まで、日本における死因の第1位です。
生涯でがんにかかる男性は2人に1人、女性は3人に1人と推測されており、がんは日本人にとって身近な病気といえるでしょう。
運動不足ががんにつながる理由
令和3年版厚生労働省白書によると、運動不足は喫煙、高血圧に次いで死亡に関する危険因子の第3位となっています。運動不足が原因で年間約5万人が亡くなっており、そのうち約2割ががん(悪性新生物)であると報告されています。
運動習慣は結腸がん、肝臓がんなど特定のがんの発症リスクを下げることがわかっていますが、運動不足が招く糖尿病や肥満も、がんの発症リスクと関係があります。
糖尿病との関連
運動不足が続くと、インスリンの効果が弱まることで血糖値が下がらず、糖尿病を発症しやすくなります。糖尿病患者は、がんのリスクが高いことがわかっており、糖尿病でない人と比べて結腸がんのリスクが約1.4倍に、肝臓がんとすい臓がんは約2倍に上がると報告されています。
肥満との関連
運動不足は肥満を招きます。肥満は、すべてのがんを発症するリスクを高める可能性があると報告されています。また、肥満は代謝の低下によってインスリンがうまく働かなくなるため糖尿病の原因となり、その結果、がんのリスクを高めるのです。
運動によって発症リスクが下がるがんとは
運動によって、特定のがんの発症リスクが下がることが報告されています。ここでは、4つのがんについて解説します。
結腸がん
結腸(大腸)がんは国際評価でも、日本人を対象とした研究でも、運動によって発症リスクが下がることがわかっていいます。
また、運動量が増えるほど結腸がんのリスクが減少し、運動量が最も多いグループは最も少ないグループよりも発症リスクが4割以上下がるという報告もあります。
肝臓がん
男性は、運動量が多い人ほど肝臓がんのリスクが低下することがわかっています。
国立がん研究センターの研究において、肥満が肝臓がんのリスクを上げることが「ほぼ確実」とされていることから、運動による肥満の解消も発症リスクの低下に関係しているといえるでしょう。
すい臓がん
男性は、すい臓がんについても運動量が多い人ほどリスクが低下することがわかっています。
運動不足が原因で起こる肥満や糖尿病も、すい臓がんの危険因子です。肥満によるすい臓がんのリスクは約1.2倍に、糖尿病によるリスクは約2倍になるといわれています。
胃がん
女性の胃がんは、運動量が多い人ほどリスクが低下することがわかっています。
男性においても、BMIが27以上の肥満グループでは胃がんの発症リスクが高いことが報告されています。
がん予防につながる運動
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」によると、18~64歳の人は以下のような運動内容を目標としています。
- 運動強度は3メッツ以上(息が弾んで汗をかく程度の運動)※「メッツ」については後述
- 毎日60分あるいは、1週間に23メッツ・時以上を行う
「3メッツ以上の運動」とはウォーキングや早歩き、軽めのジョギング、エアロビクス、水中散歩などのことです。
掃除や洗車、子どもと遊ぶ、自転車通勤、階段をゆっくり上がるといった動作も3メッツ以上の運動に相当します。通勤や家事など、日常生活の中で体を動かす機会を増やすだけでも効果があります。
身体活動の強度と量
「メッツ」という用語を初めて聞く方も多いでしょう。「メッツ」とは身体活動の強度、「メッツ・時」は活動量を表す単位です。「メッツ・時」は、身体活動の強度(メッツ)に身体活動の時間(時)をかけて算出します。
(例)4メッツの身体活動を30分間行った場合は、4メッツ×1/2時間=2メッツ・時
1メッツ・時に相当する身体活動は以下のとおりです。
生活活動 | 運動 |
20分間の歩行 | 20分間の軽い筋力トレーニング |
15分間の自転車や子どもとの遊び | 15分間の速歩やゴルフ |
10分間の階段昇降 | 10分間の軽いジョギングやエアロビクス |
7~8分間の重い荷物運び | 7~8分間のランニングや水泳 |
運動におけるメッツと「1メッツ・時」に相当する時間は以下のとおりです。
運動内容 | メッツ | 1メッツ・時に相当する時間 |
ボーリング、フリスビー、バレーボール、太極拳、ピラティス | 3.0 | 20分 |
ゴルフ(カートあり、待ち時間は除く) | 3.5 | 18分 |
水中運動、卓球、パワーヨガ、ラジオ体操第1 | 4.0 | 15分 |
バドミントン、テニス(ダブルス)、ラジオ体操第2 | 4.5 | 13分 |
野球、ソフトボール、サーフィン、バレエ(モダン、ジャズ) | 5.0 | 12分 |
バスケットボール、ウェイトトレーニング(高強度) | 6.0 | 10分 |
山を登る(0~4.1kgの荷物を持って)、エアロビクス | 6.5 | 9分 |
ジョギング、サッカー、テニス、水泳:背泳、スケート、スキー | 7.0 | 9分 |
サイクリング(約20km/時)、ランニング:134m/分、水泳:クロール、ゆっくり(約45m/分) | 8.0 | 8分 |
出典1:厚生労働省:標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会第3回資料
出典2:運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書
●ウォーキング
ウォーキングの強度は3メッツですが、姿勢や歩き方を少し工夫するだけで4~5メッツまで上がります。歩く時は、以下のポイントを意識してください。
- 下を見ず、20メートルくらい前を向いて歩く
- 歩幅を広げ、普段よりも5センチメートルくらい先にかかとを付けて歩く
- かかとから着地し、つま先で蹴るようにして歩く
- 歩く時は腕を軽く振る
- きついと感じない範囲で、いつもより速く歩く
ウォーキングや運動の時間が取れなくても、日常生活の中で歩く頻度を増やしたり、歩き方を工夫したりすることで効率よく身体活動量を増やせます。
軽いジョギング
軽いジョギングの強度は6メッツです。運動に慣れていない方はウォーキングと組み合わせたり、ペースを落としてゆっくり走ったりして、無理のない範囲で行いましょう。
1日5~10分程度のジョギングでも、毎日続けることで生活習慣病による死亡リスクを3~5割減らせることがわかっています。
まずは短い時間からでもよいので、少しずつ運動習慣をつけていきましょう。
水中ウォーキング
水中ウォーキングの運動強度は4.5メッツです。陸上でのウォーキングよりも足腰への負担が少ないため、高齢の方や運動に慣れていない方でも無理なく行えます。
水の抵抗によって、筋力の向上が期待できることもメリットです。
運動習慣を身につけてがんの発症リスクを下げよう
日本人の死因の第1位であるがんも、発症リスクを下げるためには運動が有効です。適度な運動は、がんはもちろん危険因子である糖尿病や肥満も防ぎ、死亡リスクを減らすことにつながります。
最も避けたいのは、「何も運動をしないこと」です。短い時間でも、少しずつでもよいので、今日から運動習慣を取り入れましょう。