
「まだ45歳なのに、最近忘れ物が多くて…」「仕事のミスが続いていて、心配」、これらの症状がある場合、もしかしたら認知症かもしれません。65歳未満の人に発症する「若年性認知症」の場合、気になる症状があっても「仕事の疲れ」と考えがちです。
若年性認知症についての理解と早期発見に努めましょう。
もしかしたら若年性認知症かも
若年性認知症とは、65歳未満に発症する病気で、18〜39歳に発症する若年期認知症と、40〜64歳に発症する初老期認知症に分かれます。
若年性認知症のきっかけとなる病気はいろいろありますが、ほとんどが脳の病気と言われています。64歳以下の場合、認知症のような症状があっても、年齢が若いため見過ごされがちです。また、本人は気づかなくても家族や友人など、身近な人が異変に気づくこともあります。
若年性認知症の4つの原因
若年性認知症の原因となっている脳の病気には、以下の4つがあると考えられています。
1.脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳の血管がつまったり破れたりする病気が原因で発症する認知症。意識障害、言語障害、麻痺などの症状があらわれます。リハビリなどで回復する場合もあれば障害が残ることもあり、その場合、思うように体が動かなくなることでふさぎ込んだり、意欲が低下したり、認知機能の低下がみられます。
2.アルツハイマー型認知症
認知症の中でも最も多いとされています。脳の神経細胞が変性したり壊れたりすることで起こる認知症です。脳からの指令が体にうまく伝わらなくなり、やる気が出なくなったり喜怒哀楽が乏しくなったりするなどの症状が現れます。症状の出方には個人差があるため、本人も周囲の人も気付きづらい場合があります。
3.前頭側頭型認知症
脳の「前頭葉」や「側頭葉」が萎縮し、発症する認知症です。認知症患者の10人に1人が前頭側頭型認知症と言われています。アルツハイマー型認知症と比べて人格や行動、言語への影響が大きいのが特徴です。
人格、行動の変化について、社会性が欠如した言動が増えます。前頭葉では、主に感情、性格、理性、思考を司っています。萎縮することでこれらの機能が低下し、社会性を欠いた言動が目立つのです。また「側頭葉」では、主に言語を司っているので、これが萎縮することで、言語障害などの症状が発症することもあります。
4.レビー小体型認知症
レビー小体認知症は、認知症の10〜30%を占めアルツハイマー型認知症についで多い認知症です。「レビー小体」という異常なタンパク質の塊が大脳皮質に溜まり発症します。症状としては、認知機能の障害に波があることが特徴です。自分がいる場所や時間の把握や、会話における理解力が低下している時と、はっきりしている時の波があります。
またパーキンソン症状といって、手足が動きにくくなったり、手が震えたり、動きが遅くなったりします。その他、見えるはずのないものや人が見えたり、実在するものとは異なったものに見えたりと幻視と言われる症状もあります。
若年性認知症の症状
若年性認知症の症状は、主に2つの症状に分けられます。
- 中核症状
- 行動・心理症状
1つずつ解説します。
中核症状
中核症状とは、脳の障害が原因で起こるものです。次のような症状があります。
記憶障害 | 物忘れがみられる。例えば、数時間、数日前の出来事が思い出せない、大事な約束を忘れてしまっているなど。 |
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見当識障害 | 日付や時間、自分が今いる場所がわからなくなること。今日が何の日かわからなくなったり、時間感覚がおかしくなったりする。また馴染み深い場所にも関わらず、迷子になってしまう。 |
理解力や判断力 の低下 | 運転中に、車線からはみ出ていても修正できなかったり、止まるべきところでブレーキをかけられなかったりする。また、得意料理が作れなくなったり、いろいろなことの手際が悪くなったりする。 |
行動・心理症状
行動・心理症状とは、中核症状に伴って起こる症状です。例を挙げて解説します。
妄想 | 被害妄想が多く、「大事にしていた壺を盗られた」「財布を盗られた」「あの人が私の悪口を言っている」「あの人に叩かれた」など。 |
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幻覚 | 実際には何も見えないのに見えることを指す。この他に、聞こえないはずの音が聞こえる「幻聴」、特に味はしないのに毒のような味がするなどの「幻味」、いるはずがないのに体の中に虫が這いずり回っていると感じる「幻触」などがある。 |
徘徊 | 家の中を目的もなく歩き回る、夜中に何も言わずに外出する、など動きを止めようとしても止まらない。本人にとっては理由があるので、いくら説明しても同じことを繰り返す。 |
不安・焦燥・抑うつ | 中核症状である、気分の落ち込みや意欲が低下することで、「不安」からさらにふさぎ込んでしまう「抑うつ」、今までできていたことができなくなり焦りが生まれる「焦燥」などが見られる。 |
不潔行為 | よくある事例は「弄便(ろうべん)」といって、排泄した便を触り、その手で壁や物に便を付ける行為をする。また、トイレの場所がわからないために、間に合わず失禁してしまうこともある。 |
気になる症状があれば自分でチェック
気になる症状がある場合には、認知症かどうかを自分でチェックできるツールがあります。一度試してみてください。
自分でできる認知症の気づきチェックリスト
出典:東京福祉保健局|認知症ナビ
日常生活で生じる変化
若年性認知症の場合、次のように、日常生活においてさまざまな変化が生じます。
- 職場での問題
- 生活での変化
- 性格の変化
1つずつ解説します。
職場での問題
職場においては、次のような変化、問題があります。
- 仕事に対するモチベーションが低下した
- 毎日の業務に対して自分から発言・行動することがなくなった
- 当たり前のように行なっていた業務の手順、やり方がわからなくなる
- 注意力が散漫になって、ミスすることが増えた
- すぐに怒るかと思えば反応が乏しくなったりする
- 社内ミーティングやお客様との打ち合わせの約束を忘れる
- 報告・連絡・相談をよく忘れる
生活での変化
生活においての変化には、次のようなものがあります。
- キレイ好きだったのに、散らかった部屋の片づけをしない
- 物忘れが多くなる
- 会話の頻度が減少する
- 家事や育児をしなくなったり、ぼーっとしたりすることが増えた
- 化粧をしたり髪をとかしたり、自分の身なりを整えなくなった
- 休日は必ず出かけていたのに、全く外出しようとしなくなった
性格の変化
性格の変化には、次のような変化があらわれます。
- 楽しんでいた趣味に全く関心がなくなる
- 明朗活発だったのが、落ち込んだり気持ちが沈みこんだりすることが増えた
- 1日中、パジャマのままで過ごすことが続いている
- 喜怒哀楽が激しくなった
このように、以前とは違うさまざまな変化があります。本人だけではなく、家族や知人でもわかる変化でしょう。
「いつもと違う」と感じたら早めに受診しましょう
若年性認知症は、65歳未満、特に40〜50代のまだまだ働き盛りの世代に起こります。そのため、最初はなかなか受け入れることができず、その結果、発見が遅れてしまいがちです。
日常生活のあらゆる場面で、今までとは違う変化がみられます。この記事を参考に、気になる症状やあてはまる症状がある場合は、一度受診することをおすすめします。
セルフチェックリストも活用しながら、若年性認知症の早期発見、早期治療に努めましょう。
なお、WELLXiLでは以前「中高年のメンタルヘルスと雇用延長のリスク」と題して、ウェビナーを開催しました。認知症診断の第一人者である朝田隆医師が、若年性認知症について実例を交えて解説しています。無料で視聴できますのでぜひご覧ください。
動画視聴はこちら
文・WELLXiL編集部